幸せまでの距離


「どうしたら、メイに伝わるのか な……」

ミズキは柔らかい声で言った。

「本当のこと言うとね、リョウのことを いじめた子を殺したいくらい憎んだ時期 もあったよ」

床に伏せたメイの上半身が、小さく動 く。

「でも、今の私は、いじめる側ばかりが 悪いとは思わない。

だって、人はみんな、自分以外の人を傷 つけるために生まれてきたわけじゃな い。

赤ちゃんの頃は、真っ白だったはずだも ん。

それなのに、望まない環境の中で、悪い 心、攻撃性ばかりが育まれてしまう子も いる。

歪んだ大人に、『そう生きろ』と言われ てるみたいにさ……。

そんなの、私は許せない。

そう気付かせてくれたのは、メイなんだ よ?」

「……」

「世間では、悪人は悪人としてしか見ら れない。

でも、本当にそれでいいのかな?

責めるだけ責めて、肝心の原因は追求さ れないまま終わる。

そしてまた、同じような事件が起こ る……。


……マナの過去を知って、なおさら考え させられたの。

純粋に生きたいはずの子供が、力のある 大人に簡単にねじふせられる。

人はみんな『なんとなく』だけで周りに 流されて、間違っている習慣すらも日常 だと錯覚してしまう。

感覚がマヒして、あやまちに気付かな い。


他人の痛みに気付けないのは、人とし て、最大の罪だと思う。


みんながみんな、マナのように立ち直れ たらどれだけ幸せか。

……でも、現実はそうじゃない。

自ら命を絶つ人が、この国には多すぎ る……」

「マナさんの過去……。自殺……?」

メイは上半身を上げ、ミズキを見た。

ミズキの目は、潤んでいる。

「そうだよ。マナもきっと、過去に苦し む瞬間がある。

私もそう。傷を忘れられる人なんていな い。

マナは一度、死のうとしたことがある」

メイは軽く目を見開く。

「それでも、私は思うの。

マナとの出会いも、メイと姉妹になれた のも、偶然なんかじゃない。

運命なんだって……!

みんなと出会えて、私は幸せ者だっ て……!

幸せな分、今度は私が、みんなを幸せに したいって……!


お願い、メイ。

リョウの分まで生きて。

生きることから逃げ出さないで。

自分が死んだら、悲しむ人がいるって自 覚して。

そしたら、全部、赦(ゆる)すから。

他の人が何と言おうと、私はメイの姉な んだから……!」