幸せまでの距離


絆創膏を通してリクの体温が指先に伝わ り、メイは小さく震えた。

手を伸ばせば届く距離。

数ミリでお互いの肩が触れ合うところ に、リクがいる。

彼から離れようにも、階段の横幅は狭 く、メイはその場に縮こまるしかなかっ た。


手当てを終えると、リクはきっちり道具 を片付け、メイが抱いている猫の頭を そっとなでた。

「メイ、さっき言ってたよな。

バイトするって」

「来ないでよ」

「先に言われた……!

みんな連れて遊びに行こうと思ったの に」

「迷惑」

「ってことは、接客系なんだ?」

リクはしたり顔。

ストレートに「どこでバイトするの?」 と質問しても、メイは答えないだろうと 思い、彼はあえて、鎌(かま)をかけた のだ。

「居酒屋?

コンビニ?

ファミレス?」

リクはわざと、おどけた口調をしてみせ る。

悲しい時だからこそ、少しでもメイを明 るい気分にさせたくて。

「心当たり、全部探し回ってみれば?」

そっけなく言い、メイは立ち上がった。

リクが何を考えているのかは知らない が、ほんの少しだけ、メイの気分は浮上 した。

一生を生き抜くことを考えると気が重た いけれど、この瞬間を過ごすことだけに 意識を注げば、さほど苦しくはならな い。

「アンタには心配かけない。

とりあえず、あと1日だけ、生きてみ る」

「そうだな……!

じゃあ俺も、あと1日だけ、頑張ってみ る」


長い人生。

1日ごとに目標を決めて実行すれば良 い。

そうすれば、おのずと自分の道は出来て いくのだから。