幸せまでの距離


メイはその匂いに覚えがある。

高校の時、メグルと仲良くしていた万引きメンバーのうちの1人がつけていた香水の香りに似ている。

その記憶と、実の母の名前を口に出されたことの不快感で、メイは相手の女子生徒を軽く睨みつけた。

メイに睨まれた女子は、メイの視線の在り方に突っ込むことはなく、そうするのが当然のようにメイの隣に腰を下ろす。

“何なの、こいつ……”

メイは彼女から離れるため難しい顔をしたまま他の席に移ろうとすると、彼女が言った。

「もしかして、怒らせちゃったー?

ごめんごめん」

反省など全くしていないような軽いノリで謝る彼女は、生駒カナデ(いこま·かなで)と自分の名を口にした。

カナデは無言で席を立つメイの腕を強くつかみ、

「私の親が昔、穂積翔子のファンだったの。それでつい。

もしかして、穂積翔子のこと嫌い?」

「知らない。興味ないし」

カナデに引き止められたメイはしぶしぶ答え、他の席に移動するのを諦める。

メイは今日ほど、翔子が舞台女優をしていた過去を恨んだ日はない。

《血は水より濃い》とはよく言ったもの。

メイと翔子は戸籍上他人同士になったとはいえ、メイを産んだのは翔子であるという現実に変わりはない。