幸せまでの距離


穴を掘った河川敷から歩いて5分もしな いうちに、二人は広めの公園に着いた。

中央に噴水があり、ベンチや遊具の数も 充実している。

周囲には住宅があり、その窓のほとんど から明かりが消えている。

もう、夜はだいぶ遅い時間になってお り、浮かぶ星々は見守るように二人を照 らしていた。


「前来た時は、もっと遠く感じたのに なー。

こんなに近かったっけ?」

「前って、いつの話してんの」

そっけなく返すと、メイは人気のない公 園に足を踏み入れ、公衆トイレのそばに ある水道のハンドルを片手でひねった。

その仕草のせいで、ふさがりかけていた 指先の傷が痛み、再び血がにじむ。

「……」

猫を抱きしめるようにして、メイは痛く ないフリをした。

上を向いた蛇口から、水がとめどなく流 れている。


「その子、こっちへ」

リクはメイから猫を預かり、落とさない ようしっかり抱くと、メイの指先を見 た。

「血、にじんでる……。

直接水につけたら痛そうだな」

リクは難しい顔で、メイの指先を見つめ ている。

まるで、今まで彼女の見てきたものがそ の指先で小さく表現されているように感 じた。

「……あ! いいものがある!」

昼間、マナの家に向かう時、駅前で配ら れていたポケットティッシュを取り出 し、リクはそれを1枚ずつ水に濡らして いった。

「しみるかもしれないけど、なるべく早 く終わらせるから、少しだけ我慢し て?」

水に浸したティッシュをメイの傷口に当 て、そっと汚れを拭き取るという作業を 繰り返し、最後は新しい乾いたティッ シュで指先の水分を拭った。

水にしみて痛かったものの、余分な土も 落ち、メイの傷口はキレイになった。

リクの処置がなければ、メイはもたつい ていたかもしれない。


表面的な意識とは真逆に、メイの胸はあ たたかい音色を奏でていた。

黙ったまま傷のついた指先を見つめるこ とで、メイはリクへの想いをごまかそう とした。