幸せまでの距離


今はどうしても、家に帰りたくない。

けれど、ここでこうしているわけにはい かないことも、メイには分かっていた。

子猫達は、自分に懐いてくれている。

家には菜月とミズキが居るので、エサの 心配はいらないかもしれないが、動物に も感情がある。

例にあげると、犬は、寂しい時自分の排 泄物を食べるという。

表現方法は違うが、動物にも、人と同じ ように感情がある。


しばらく考え、メイはうなずいた。

「……うん。この子と一緒に、家に帰 る」


メイが猫達を飼いたいと申し出た時、菜 月は言った。

命を育てることには大きな責任がともな うから、安易な判断をしてはいけない、 と。

もしここで帰らなかったら、今後も何か あるたびに理由をつけて、子猫達の世話 を怠(なま)けてしまうかもしれない。


今日メイは、樋口の行いにより動物の命 の重さや、それによって失うものの大き さを知ったけれど、人は、忘れる生き 物。

過去に苦しみつつ、今こうして呼吸して いられるように、いつか、この痛みを忘 れる日が来るかもしれない。

この瞬間がつらくても、時が流れた末、 無かったものに感じる時が来るかもしれ ない。

その結果が、「成長」や「前進」ではな く「堕落(だらく)」や「鈍感」になっ てしまうのでは、経験の意味がない。

「あの子達を放っておくわけにはいかな い。

樋口が認めなくても、私はもう、飼い主 なんだから」

メイは言い、リクより先に歩き出した。

彼女は今、猫を飼い始めた時より強い意 思を持っていた。

それがリクの影響であることに気付か ず、水道のある公園を目指した。