幸せまでの距離


メイはこう考えている。

昔、自分を傷つけてきた大人達は、皆、 弱い人間だったのだろう、と。

自分勝手な欲望に溺れ、幼いメイを食い つくした大人達。

快楽を求める気持ちには、底がない。

病的に繰り返すギャンブルや買い物での 散財と同じ、

人は、楽しいこと、気持ちが良いと思う ことを延々と繰り返したがる。

適度ならそれも良薬となるが、行き過ぎ てしまうのは、自分の欲求をコントロー ルできない、心の弱さの表れである。


大人達の暗部ばかり見て育ったメイは、 自分までもが弱い人間だとは、思いたく なかったのだ。

彼らと同じ、「人間であること」にすら 嫌気がさすのに。

リクに理解を示してもらえたことで、心 を蝕(むしば)む感情の膿(うみ)は、 ようやく、かさぶたになってくれるかも しれない。

ほんの少しだが、メイはそう感じた。


リクに心を開きつつ、一方で、どうして も納得できない思いがあり、彼女は尋ね た。

「……それって、今まで見てきた嫌な大 人を許したってこと?

そんなの、負けた気がしない?

一方的に傷つけられたまま、私は泣き寝 入りしてきた。

訴えたくても、そうする金も、心の余裕 もなかった。

なのにアイツらは、私のことなんか忘れ てゆうゆうと生きてる……」

「メイを傷つけた大人を、許したわけ じゃない。

それでも俺は、憎しみに飲まれないよう に、まっすぐ生きてみせる。

メイに対し、後ろめたいものを作らない ために。

幸せになるために。

それが、メイを傷つけた人達への最大の 復讐だと思う。

こういう気持ち、あの人達には分かりっ こないだろうね。

人として、それって不幸なことだと思 う」

メイの横顔に、彼女を失意のどん底に突 き落とした大人達の影を感じるリクだっ た。