幸せまでの距離


本当なら、自宅の庭に墓を作ってやりた かったが、親との再会を待っているであ ろう子猫達に、こんな親の姿は見せられ ない……。

メイは仕方なく、思い入れの強いこの場 所に来てみた。

彼女にとって、数少ない楽しい記憶のあ る河川敷。

現実から逃げるように、昔はよく、リク とここで遊んだものだ。

しかし、穴を掘りすすめつつも、メイに は迷いがあった。

本当に、この場所を親猫の墓にしていい のだろうか、と……。


穴を掘り終えると爪の間は真っ黒にな り、メイの指先には土に混じった小石や ガラス片のせいで小さな傷ができてい た。

傷の深い部分には血がにじみ、ジクジク と痛むが、それよりも心の方が痛かっ た。

地面にヒザから座り込み、メイは親猫を 抱きしめ、

「やっぱり、埋めたくない……」

「どうして?」

「この子と離れたくない……!」

「メイ……。それだけ大事だったんだ な、その子のこと」

涙が出ない代わりとでも言うように、メ イの全身は震えている。

「この子がいたから、私は変われた。

ちょっと前だったら、働くなんてめんど くさいとしか思えなかった。

動物を飼いたいとすら、考えたことがな かった。

この子は、偶然ウチの庭に入ってきただ け。

そのうち来なくなるだろって思ってたの に、毎日のようにやってきて、私なんか に懐いてくれた。

それだけのことって、アンタは思うで しょ?

でも、私には大きなことだった。

自分のことが嫌いで嫌いで、死にたい、 生きてる価値なんてない、そう思ってた 私を赦(ゆる)すみたいに近付いてき て……。

心にある汚いものも、全部、偏見なく受 け入れるみたいに、この子は私に甘えて くれた。

捨て猫だからエサ目的で寄ってきただけ なのかもしれないけど、それでもかまわ なかった。

そばに、いたかった……。

なのに、なんでだよ……」