幸せまでの距離


メイに続いて樋口宅を出ようとしたリク を引き止め、今井は言った。

「メイちゃんと君は、どういう関係な の?

あ……。答えたくなかったらいいんだけ ど、気になって……」

「幼なじみです」

リクはにごりのない声で答えた。

「そうなんだ。僕と樋口みたいな間柄な んだね……」

「……そうですね。

俺達は、今井さん達に似てると思いま す。

長年付き合ってるのに、大事な部分で通 じ合えていないし……。

あ、すみません……! 今、嫌なこと言 いましたね、俺……。

今井さんのこと悪く言うつもりじゃなく て、その……」

リクはたじろぎ、申し訳なさそうに今井 を見た。

今井は苦笑し、

「かまわないよ、本当のことだから。

……僕は昔からこうでね。

自分自身の力で物事の決断ができない し、大事なことだとなおさらそうなるん だ……。

樋口も、そんな僕に内心イライラしてた かもしれない。


学生時代、妻の中絶を決めたのも、妻に うながされてやっとうなずいた感じ で……。

自分の決めたことが間違ってた場合に、 責任を負うのがこわかったんだ。

子供の頃はそれでも許されてきたし、む しろ、自己主張しない僕の存在は、周り の人にとっても都合が良かったと思う。

僕も、誰かに指示されて動く方が楽で ね……。

『大人になったらそんな性格も変わるだ ろう』って、楽観視してた……。

でも、いくつになっても本質は変わらな い。

変化したように装うことはできても、中 身は昔のままだよ……」

「……本当に、奥さんに浮気のことを話 すんですか?」

「ああ。話すよ。

たとえ、妻が離婚を望む結果になって も……。

ずっと妻を騙してきた僕が悪いんだし、 このままだと、残された子猫達は人に売 られてしまうし、最悪、親と同じ目にあ うかもしれないから」

「そうですか……」

今井のやり方が正しいのか、リクには分 からなかった。

「どうかリク君には、誰にも言えないよ うな間違いを犯さないで生きてほしい。

僕みたいな大人には、ならないで……」

「今井さん……」

「僕はここで、樋口の帰りを待つよ。

樋口とちゃんと話して、星崎さんが堂々 と子猫達を飼えるように説得してみせ る。

君は、メイちゃんを追うんだよね?」

「はい! 樋口さんのこと、お願いしま す!」

リクは言い、メイを追いかけた。