幸せまでの距離


散らかったダイニングに入ると、メイは シンク脇に置かれている食器乾燥機を開 いた。

中から包丁を取り出し、リクと今井にか まわず玄関に向かう。

「メイ、やめろ……!」

彼女の考えを察したリクはメイを追いか け、彼女をなだめようとしたが、メイは それを聞こうとはしなかった。

片手に親猫を抱き、もう片方の空いた手 で包丁を持ったまま、メイは言った。

「私が言えたことじゃないけど、どこを 見ても悪人ばかりで、嫌になる」

親猫の死に直面しただけでなく、樋口と 今井の過去を知って、メイの心は再びト ラウマに冒(おか)されていた。


「アンタ達が何もしないなら、私がアイ ツを殺す」

メイは廊下を突き進み、玄関から外に出 ようとした。

「待ってくれ……!」

今井はメイを止めようとした。

彼は、玄関扉を開けようとしているメイ の前にたちはだかり、

「僕が必ず、樋口を改心させてみせる!

だから、それを渡してくれないか?」

「動物殺しに慣れたヤツが、そんな簡単 に改心するわけない。

アイツは、人間の姿をした害虫だ」

「たしかに樋口は許されないことをし た!

でもそれは、僕の責任なんだ!」

「だったら、先にアンタを殺してやる よ。

アンタ達さえいなければ、この子は死な ずに済んだんだから……!」

「……!」

メイが今井に包丁を向けた時、リクがそ の腕をつかみ上げ、メイの殺意を鎮(し ず)めた。

「それより先に、することがあるだろ?

その子のお墓、作ってあげないと……!

メイがその子を大切に想ってたってこ と、最期にちゃんと伝えてあげない と……!」

「…………」

メイの手から包丁が滑り落ち、床に渇い た音が響いた。

悔しげに唇をかみしめつつリクの手を振 り払うと、メイはしっかり猫を抱きし め、外に飛び出していった。