「みんな、僕が自分のことしか考えてい なかったから。
シェルがこんな目に遭ったのも、樋口か ら逃げ続けたせいなんだ。
助けを求めておきながら、星崎さんにも ウソをついてしまった……」
今井は、今日こそ妻に過去のあやまちを 打ち明け、樋口の気を晴らすつもりでい た。
そうしないと、猫だけでなく、関係ない 人達まで樋口の暴挙に巻き込んでしまう と思ったからだ。
「でも、遅かった……。
昨日樋口と話してて、こうなることは予 想できていたのに、今の生活を壊すのが 怖くて、僕は動けなかった……」
しばらく思案した後、リクは口を開い た。
「俺には、全部理解することはできませ ん。
今井さんが浮気したことも、樋口さんに おびえる気持ちも……。
ただ、奥さんを傷つけたくないって気持 ちは分かります。
それに、樋口さんの立場だって、分から なくはありません。
仲良くしてる友達に自分を苦しめるよう な言動を取られたり、裏切られたりした ら、俺だって腹が立つし、悲しくなる し、頭にきて周りの人に当たってしまう かもしれない。
でも! 樋口さんのやり方は間違ってま す!
今井さんのことを信頼できなくなったか らって、そうやって猫の命を盾(たて) にするなんて……。
もし、そんなことが通用する世の中に なったら、あちこちで殺人が起きるし、 今より動物の命を軽く見る人が増え る……!
そんなの、野生の動物と一緒じゃないで すか。
人間に理性が備わっているのは、何のた めです……?」
「……でもさ、理性じゃ抑えられないモ ンもあるんだよ」
そう返したのは今井ではなく、メイだっ た。
猫を抱いたままうつろな瞳で立ち上が り、メイは言った。
「人間なんて、単なる動物だよ。
理性が働いてる人間なんて、稀(ま れ)。
私はそう思う。
自分を含めて、ね」
猫を抱いたまま、メイは浴室を出て、脱 衣所を後にした。
「メイ……!?」
リクはメイを追いかける。
今井も袖口で涙を拭き、二人に続いて浴 室を飛び出した。


