幸せまでの距離


専門学校に向かう途中、菜月は何かとメイに話しかけた。

入学式にはどれぐらいの生徒が参加するのだろうか。

ミズキは大学に入ったから、入学式に保護者の同伴はいらなかったということ。

メイがノドの渇きを訴える前に、駅の売店で飲み物を買ってくれたりもした。

“私はリョウを追い詰めた人間なのに……。

親切にされる資格はないのに……”

メイの心の中からは常に、その想いが抜けることは無かった。

星崎家の人々に愛を示されれば示されるほど、生きていて良かったと感じることができるが、その半面、同じくらい罪悪感も膨らんでいった。

“私がリョウと関わらなければ、リョウはマサヤに目をつけられずに済んだかもしれないんだ”

かといって、二度と実の母親の元に戻りたくはない。

あの悪夢を味わうくらいなら、一人で死を選ぶ。

考えを巡らせた末にたどり着くこたえは1つだけ。

“私は、生きていかなくちゃいけないんだ。

どんなに苦しくても、逃げることは許されない……。

それがリョウへの償(つぐな)いなんだ……”

菜月やミズキ、大成と接して後ろめたい感情に蝕(むしば)まれそうになった時、メイは自分自身にそう言い聞かせている。

メイが今、弱い自分を支えていられるのは、高校時代の友人·滝川メグル(たきがわ·めぐる)の祖母である滝川清(たきがわ·きよ)のおかげでもある。

メグルも裏表のない人物で、メイのことをよく気にかけてくれた愛情深い女の子だが、清はメイと血のつながりがないのに無条件でメイを愛してくれた、大事な恩人である。

メイが星崎家に身を置いていられるのはミズキの優しさも大いに関係あるが、清との思い出があったからこそ。

“ばあちゃん、がんばるよ。私。

空から見ててね”

亡き清を想った。

菜月と一緒に専門学校の門をくぐったメイは、目の動きだけで上を見上げる。

青い空に浮かぶ丸くて白い雲が、校内に並ぶ桜のピンクと合わさって鮮やかに映(は)えていた。

かすかに陽気を含んだ冷たい春風が、メイの髪をなでていく。