幸せまでの距離


「そんなことないよ」

今井は否定したが、マユミはさらに言葉 を吐いた。

『私達、もう、別れた方がいいのか も……。

だって、お父さんやお母さんは、私達が 別れれば安心って言ってるし……。

ううん、違う……。そうじゃない……!

こんな自分、嫌なの。

口を開けば、否定的なことしか言えな い。

智弘に八つ当たりして、楽になることし か考えられない。

学校も行きたくない。

何もしたくない。

毎日、泣いてばかり……。

前の自分に戻りたいよ……』

こんな自分は、いつか今井に見放されて しまうのでは……?

今井とは違う方向に、マユミは思いつめ ていた。

『もう、こんな自分、嫌……。

付き合ってたら、いつか智弘に嫌われる 気がする……。

だから、もう、連絡しないね。

……バイバイ』

それがマユミの本心でないことを、今井 は気付いていた。

そんなことないよ、俺はそんなことで嫌 わないよ、そういう、柔らかい言葉を望 んでの“別れ言葉”なのだと、長年の付 き合いで察していた。

けれども、今井は彼女を引き止めず、 「わかった」と短く返し、電話を切っ た。


翌日、マユミから電話があったが、今井 は出ることができなかった。

『昨日はごめんね。

つらいのは、智弘も同じだよね……。

私ね、やっぱり智弘が必要なの』

後々聞いた留守電に、彼女の涙声でそん な言葉が入っていた。


マユミが泣いて電話をかけてきた頃、今 井は大学の友人達に誘われてしぶしぶ合 コンに参加していた。

マユミとのことがあり最初は気がすすま なかったが、今井の事情を知らない友人 達も、最近の彼が気を落としていること に気付いていたらしい。

これ以上、友達に気を遣わせるのは申し 訳なくて、今井は無理して合コンに臨 (のぞ)んだのだった。