今井は、親猫・シェルの無事をミズキに 教えるため樋口宅に来たが、結果、それ はうまくいかなかった。
過去のあやまちを引き合いに出されたこ とで、今井は完全に樋口の言いなりにな るしかなかった。
「……わかったよ、樋口」
猫を抱いたまま不安定な体勢で起き上が ると、今井は樋口の指示に従った。
樋口のケータイから送られてきた、シェ ルが元気だった頃の画像。
それを、あたかも今撮影したように見せ かけてミズキに送った――。
今井が恐れているのは、樋口がマユミに 全てを話してしまうこと。
大学時代、マユミは今井との間に授かっ た命をなくし、精神的に不安定になっ た。
育てるのは無理だと分かっていても、彼 女には母性が芽生えていたそうだ。
そんな中、両親から今井との別れを強要 されたり、遠方の大学に通う今井との遠 距離恋愛で、マユミはさらに精神を病ん だ。
マユミは地元の大学に通っていたが、休 学を考えるほど、一時期の間家から一歩 も出なくなり、今井に対してつらく当た るようになった。
今井との恋や堕胎のつらさを、両親には 理解してもらえない。
彼女が自分を出せる相手は今井だ け……。
だが、当時の今井はそんなマユミを受け 入れることが出来ず、彼女から電話がか かってきても出なかったり、忙しいフリ をして実家に戻らなかった。
マユミを支えたいと思う分、今井のプ レッシャーは大きくなり、彼もまた、精 神的に追い詰められていたのだ。
彼女の両親から、毎日のように電話がき て「今すぐマユミと別れろ」と言われ る。
自分の両親にも「あんたに女と付き合う 資格はない。親として情けないよ」と、 悲しい顔をされる。
当時の今井が気を張らずに接すれたの は、同じ大学に通う仲間達だけ……。
彼らは、今井とマユミの間に起きたこと を知らなかったから。


