幸せまでの距離


「お前は、何も分かってねーよ。

『される側の痛み』を」

樋口は、自分の悪行を棚に上げ、言っ た。

「マユミがお前になびいたのは仕方ねぇ ことだ。

中学に入ってから、俺はマユミに関わっ てなかったし、マユミは昔からお前のこ とが好きなんだって分かってたからな。

中絶も、仕方ないかって思ったよ。

無責任な親に育てられるくらいなら、生 まれてこない方が子供のためだ」

樋口は横たわる今井の肩に右足を乗せ、 言葉を継いだ。

「俺が許せないのは、そんなことじゃね え。

お前がマユミを裏切ったことだよ。

俺がこの世でもっとも嫌いな人間のタイ プを教えてやろうか?

『異性関係にだらしない、自分の幸せし か考えてないヤツ』だよ」

「知ってる……。

お前、昔から、親の不倫に悩まされてた もんな……」

今井は力無く言った。

「樋口のそういうとこ、尊敬してる よ……。

マユミに対して歪んだ愛情表現してたの はどうかと思うけど、でも、『マユミ以 外に一途に愛せる女性がいないから結婚 はしない』って決めた時のお前、かっこ よかったよ。

そんなお前だから、俺はずっと、お前と 付き合ってきたんだ……」

「どの口がンなこと言うんだよ、あ あ!?」

樋口は今井の腹を足でえぐった。

今井は苦痛に顔を歪める。

「マユミが知ったら悲しむだろうな。

遠距離恋愛中だったからって、中絶のこ とでマユミの両親に責められてたからっ て、若かったからって、浮気する理由に なんの?

お前みたいなヤツがチヤホヤされて、い い人ぶって、幸せ探して生きてんのが、 気に入らねんだよ、俺は……!」

「…………樋口」

「お前が星崎の味方をするってんなら、 俺にも考えがある。

マユミに、お前の裏切り行為を教えてや るよ。

今ある作り物の幸せを壊してやる。

その方が、みんな幸せだろ?」

「それだけは、やめてくれ!」

「必死になるのは、シェルのためか?

マユミのためか?

いいや、お前自身のためだろ?

だったら、俺の言うこと聞けるよな?」