幸せまでの距離


授業内容とは別に、ミズキは日頃から心 理学の本を読みあさっているので、《同 族嫌悪》に関しての知識があった。

しかし、そういった心理作用は関係な く、メイの思考をプラスに修正したいと 思った。

「メイが樋口さんに腹を立てるのは、当 然だよ。

私だって、樋口さんが嫌いだも ん……!」

「……うん。でも、ミズキがアイツを嫌 う気持ちと、私がアイツを嫌う気持ち は、同じに見えて違うと思うよ」

メイは言い、ミズキに背を向け、

「今から樋口んとこ行く。

親猫助けないと」

と、リビングを出て行った。

もう21時を過ぎていたが、時間の感覚 を忘れるくらい、メイは親猫のことが心 配だった。

「メイ、待って!

親猫なら大丈夫!」

ミズキは、さきほど今井から送られてき た画像付きメールをメイに見せた。

今井とミズキは、何かあった時のために と連絡先を交換していたし、今井は樋口 に会って親猫の無事を確かめミズキに報 告すると約束していた。

「ん……。たしかに無事みたいだけ ど……」

画像を見てメイは違和感を覚えたが、何 がおかしいのかよく分からなかった。

その画像は、今日今井が撮影したものだ と知り、メイはひとまず安心する。


ミズキと別れ自室に戻ると、メイは片腕 に子猫を抱き、ベッドに入った。

仰向けに寝転び、肩まで布団をかぶる。

猫達は小さい鳴き声を上げながら、メイ の太ももや腹、脇の間にそれぞれ身を落 ち着けた。

まだ肌寒い夜、猫の体温があたたかく て、そのうちメイのまぶたは重たくな る。

“まだ寝たくない……。考えたい……”

眠りに落ちてしまう前に、樋口の元に 帰った親猫のことを考えたかった。

子猫は、みんな無事だ。

あとは親猫だけ……。

そもそも、親猫がメイに出会ってくれな かったら、子猫を産んでくれなかった ら、こうして子猫との時間は過ごせな かった。

“絶対、助けるから……!”

親猫の無事を強く願い、メイは睡魔に身 を預けた。

経験上、衝撃的な出来事に耐性のあるメ イは、樋口の過去を聞いても傷ついたり ショックを受けることはなかったが、強 い怒りを覚えた。

これが、同族嫌悪でなかったらいいの に……。

彼女が願うのはそのことと、親猫の無事 だけだった。