幸せまでの距離


明日は、マナの家でシュンの誕生日会が 行われる。

メイは朝早くマナの家に行ってケーキを 焼かなければならないし、ミズキもそれ を手伝うつもりなので、今夜二人は早め に寝ることにした。


早々に風呂から上がり、メイがリビング に行くと、短足テーブルの上には名刺が 置いてあった。

今朝は、こんなもの無かったはず。

自分と入れ替わるように浴室に向かった ミズキを待ちつつ、メイは名刺の裏表を 確認し、目の高さにかざしてみる。

シャワーを終えたミズキが、タオルで髪 を拭きながらリビングに戻った。

「今井って、誰?」

メイの口調はいたって冷静だったが、ミ ズキは思わず背筋を伸ばした。

入浴で緩んでいた神経が、とたんにシャ ンとはりつめる。

「今井さんは、夕方ウチに来た男の人だ よ」

まっすぐこちらを見ているメイに向か い、ミズキは言った。

「今井さんは、樋口さんの幼なじみなん だって……」

「もしかして、私が猫を飼ってること、 バレたの!?」

メイは興奮し、ミズキに詰め寄る。

「ううん、違うよ。今井さんは……」

ミズキは、今井と話した事をひとつもら さずメイに伝える。

無表情ながらも終始苛立った瞳でそれを 聞き終え、メイは言った。

「今井ってヤツも、信用できないんだけ ど」

「……うん」

ミズキはメイの言葉に反論しない。

メイならそう言うような気がしていたか ら。

「あと、こんなに樋口のことがムカつく 理由、わかったよ。

アイツの素性を良く知らない初対面の時 から、なぜだかアイツには腹が立って仕 方なかった。

…………アイツは、私と同じ性格して る。

だからムカつくんだよ」

《同族嫌悪》。

人は、無意識にしろ意識的にしろ、自分 に似た人間を嫌う傾向がある。

『似ている』要素は、内面であったり外 見であったり、様々だ。

メイの場合も、樋口に対してそんな心理 が働いたと言っていい。

平気で他人を傷つけ、自分以外の命を軽 視し、欲望のまま他者のプライバシーを 侵害している――。

何らかのキッカケで性格が歪み、身近な 人間に害を与える存在になってしまっ た。

「メイと樋口さんは違うよ……!

全然、違う!!」

ミズキはそれを否定したが、メイは、樋 口と自分が似ていると思った。

樋口の姿は、ひとむかし前の自分の姿に 重なる、と――。