幸せまでの距離


現在、今井の妻である女性。

小学生の頃の樋口は、彼女の使用してい た消しゴムを理由をつけてもらったり、 彼女の嫌いな給食を食べてあげたり… と、一見、友人同士のやり取りにしか見 えない言動で彼女のそばにいたが、中学 生になると樋口は途端に彼女と距離を置 くようになり、その穴埋めと言わんばか りに、陰で彼女の私物にイタズラをしか けるようになった。

最初は、彼女のはいた靴を身につけて満 足するという行為でおさまっていたが、 次第に樋口の欲望はエスカレートしてい く。

彼女の私物に体液を塗り付けて元の場所 に戻したり、夏、彼女が体育の水泳で 使った後の水着を盗んだり、夜、眠って いる彼女の家のベランダによじ登って、 カーテンをかけ忘れている彼女の部屋の 中を夜通し眺めたりした。

陰で行われた、樋口しか知らないはずの 盗み・イタズラ・つきまとい行為は、 後々、本心の口から聞いたそうだ。

そういう話を聞いて、ミズキは今井を責 めたい気持ちが湧いた。

「それを知って、樋口さんに注意しな かったんですか?

その女性は……今井さんの奥さんは、こ の先も、されたことを忘れませんよ」

「はい……。わかっています……」

本当に分かっているのか?

言いかけ、ミズキは怒りで興奮しつつあ る気持ちを落ち着けるべく、かたく両手 をにぎりしめた。

「樋口と仲良くしつつ、頭の片隅では、 彼と距離を置くことも考えました。

就職してから、一度、神奈川への転勤を 命じられたことがあって……。

その時、樋口との関係を自然消滅させら れるかもしれないって、チャンスだって 思いました。

でも…………。

出来ませんでした」

「どうして……?」

尋ねるミズキの声は弱々しくなる。

今井が悲しげにうつむいたからだ。