警戒ゆえ無表情になるミズキに、男性は 名刺を差し出した。
「申し遅れました、私は今井といいま す」
名刺には、今井智弘(いまい・ともひ ろ)と書いてある。
今井の職業が、全国でも有名な医療機器 メーカーの営業担当なのだということ も、それで分かった。
彼の丁寧な口調も職業柄なのかもしれな い、と、ミズキは思う。
「樋口の探してる白い猫、元々は、私が 飼おうとしてた猫なんです」
今井は重たい口を開いた。
「今井さんの……?」
「まだ子猫の時に店で見つけて、妻と一 緒に買ったんです」
「それを、なぜ樋口さんが飼うこと に……?」
ミズキは遠慮がちに訊いた。
普通、自分で飼うつもりで買ったペット を、他人に譲ることはしないだろう。
それなりの理由があるはずだ。
「恥ずかしいですが、話します……。
今日は元々、そのことを話すつもりで星 崎さんに会いに来ました」
今井はさらに深刻な表情を見せ、言っ た。
「昔から私は、樋口の邪魔ばかりしてい たんです」
「……樋口さんの、邪魔?」
「もちろん、悪気があったわけじゃあり ません。
樋口に対して、幼なじみ以上の情はあり ます。
でも、樋口の方は、長年私のことを良く 思ってなかったんです……。
そんな樋口の本心を知ったのは、あの白 猫を買ってしばらく経った時でした」


