幸せまでの距離


だが、リクはさして怒ることもなく、

「そっか、聞いてたんだ」

「怒らないの?」

「気付かなかった俺が悪いし。

ごめんね、話しかけようとしてくれてた のに」

「ううん、気にしないで」

二人はどちらかともなく、中庭に向かっ て歩き出した。

外に出ると、すっかり葉桜となった桜の 木がひたすら青く、あたたかい午後の太 陽が優しくそれを照らしていた。

中庭には芝生の広場を囲むようにしてい くつかのベンチが設置されている。

アカネとリクはそのうちのひとつに並ん で腰を下ろし、他のベンチに視線をやっ た。

女子学生のグループやカップルらしき男 女の姿があり、中庭はそこそこ賑わって いる。

アカネはそれらに目をやりながら、周り の雰囲気とは真逆の陰のある顔で口を開 いた。

「メイちゃんの心、助けられるといい ね」

アカネは、リク達の話からメイの名前を 覚えたようだ。

それだけでなく、メイの精神面が抱える ものも。

「命は当たり前のものじゃない。

赤ちゃんが生まれてくるのは8%の奇 跡って言われてるんだよ。

……生き続けているのは、運が良いだ け。

それなのに、自分から死にたいと思うな んて、よっぽどつらいことがあったんだ よね……。

メイちゃんのこと、救ってあげてほし い。

リク君なら、それができると思う」

「……うん。必ず」

父親を病で亡くしたアカネの言葉は、痛 いほど貴重なもの。

彼女の想いを受け取り、リクは静かにう なずいたのだった。