リクが猫探しをする一方で、樋口もま た、トートバッグ片手に星崎家に足を運 んでいた。
今日は、猫を捕獲する準備もしてある。
リクと入れ替わるようにここへ訪れた樋 口は、出勤前に早々、血眼(ちまなこ) になって猫達を探した。
彼の読み通り、星崎家の玄関前から少し 離れた外壁にもたれてしばらく待つと、 白猫は星崎家の前にやってきた。
ただ、彼がもっとも期待していた子猫の 姿は1匹しかなく、そのうえ親猫は樋口 を威嚇(いかく)するように低い鳴き声 を上げた。
樋口は苛立ちを覚え、
「今まで面倒見てやっただろ。
最後くらい役に立てよ。なあ?」
と、低音でささやく。
彼の声は、人通りのない朝霧漂う静かな 空間に、不気味な響き方をした。
子猫を口にくわえて逃げようとした親猫 を素早く捕まえると、彼はポケットの中 の輪ゴムを束にして親猫の両手足を縛 る。
その瞬間、親にくわえられていた白猫は 地面に落ちた。
逃げろと言わんばかりに親猫は高い声で 子猫に訴えたが、子猫も不穏な何かを感 知しているのか、親猫を見上げて地面で 鳴き続けているのみ。
極めつけに、樋口は持参していたハサミ で抵抗する親猫のヒゲを切り、方向感覚 を無くさせ、抵抗できないようにした。
工場勤務により薄く黒ずんだ樋口の両手 には、ぐったりした親猫が抱き抱えられ る。
「お前もこい。
いい買い手がいる」
親猫を胸に抱いたまま子猫を片手で拾い あげ、肩に下げたトートバッグの中に丁 寧な手つきで入れる。
それはまるで、新しいオモチャを大切に 保管する子供のような仕草であった ――。


