幸せまでの距離


入学式を終え帰宅してゆく学生達の波を見やりながら、ショウマは言った。

「俺は、そうは思わなかった。

よくあるじゃん。大人が何かについてグチを言うことって。

子供への教育に関してだったり、気の合わない近所の人の悪口だったり。

それ聞いて、矛盾してるって思った。

俺達子供には好き嫌いをするなと言いながら、大人達はそれを出来てないんだ」

「…………」

リクはショウマの言葉を自分のこれまでの暮らしに重ねた。

今では理解してくれているが、リクの両親は長い間、リクがメイと関わることに難色を示していた。

メイが虐待を受けて育った子供だから、という理由で。

好き嫌いをするな、

立派な人間になれ、

そう言ってリクを育てた両親は、虐待被害者だという要素だけでメイを差別し、

リクの知らない所でメイに大金を渡して、リクとの縁を切らせようとしたこともあった。


「……ショウマの言う通りかも。

ウチの親も、俺に言ってることと自分達のやってることがチグハグだった」

リクは両親と解り合えなかった時期を思い出して顔をしかめる。

「リク。感情はバランスで成り立ってるんだ。

嫌いな感情を無理に我慢したり無視したら、何かを好きになることもできなくなる。

好きと嫌いの感情は、対に存在するものだから。

どっちも、人間として生まれた以上、当たり前のように湧くものなんだよ」

そう言うショウマの声は、いま吹いている爽やかで穏やかな春風と似ていた。