幸せまでの距離


リクは腕を組んで「うーん」と考えをめぐらせる。

『好き嫌いをしてはいけませんよ』

『ケンカはダメ。みんなと仲良くしなさい』

保育園、幼稚園、小学校で、必ず言われていたセリフだ。

先生や保母さん、親や親戚の大人も、当然のようにそう口にしていた。

誰かとケンカをすれば「何してるんだ!」と怒られたし、嫌いな食べ物を残せば「全部食べなさい」

そのたびに、幼かったリクは“そういうものなのか”と大人の指示に従ってきたけど、それはリクの本音から出た行動だったのだろうか。

大人にそう言われて、反感を覚えたこともあった。

ケンカなんてしないに越したことは無いが、クラスに30人はいる子供全員と仲良くするのは無理があったし、1人は必ず、気の合わない子がいたりする。

食事だって、作ってくれた人に申し訳ないから残さず食べたいとは思っている。

でも、嫌いな物を食べるのはこの上ない苦痛だ。

小学生の頃の昼食で、担任教師が『全部食べ終わるまでは、昼休みに遊んではいけません』という決まりを作ってからは、給食の時間そのものが憂鬱になった。

そういう重い記憶は、数年後の今でもクッキリと残っている。

「ショウマの言うこと、分かる気がする。

……でも、そういうもんじゃないの?

好き嫌いはナイ方がいいにきまってる」

リクはそう答えた。