「ミズキ……。それ、正気?
あの男を、どうやったら信じられるって 言うの?」
メイの声は低くなる。
それは、ミズキを牽制(けんせい)する のに充分なものだった。
「私も、メイと同じ気持ちだよ。
樋口さんは、おかしいと思う」
「だったら……!
何で、樋口を信じろなんて言うの?」
平淡な声音ながらも、メイの口調は怒り に満ちていた。
ミズキは持ち前の穏やかな対応を前面に 出し、
「あんな人のために、メイを悪者にした くない。
もしメイが猫を返さなかったら、樋口さ んは本気で警察に通報するよ」
猫や犬などの動物は、法律上「物」とし て考えられる。
他者のペットを傷つけたら器物破損。
盗んだら窃盗罪に問われる。
ペットを盗まれても、「動物が幸せそう に暮らしているのならかまわない」と割 り切り、事を荒立てず穏便に済ます飼い 主もいるが、樋口は明らかにそういうタ イプではない。


