幸せまでの距離


「なので、もし見かけたら、連絡を下さ い。

お願いします」

ミズキに名刺を渡すと、樋口は言った。

「いつまでも、お宅の庭に入っていっ て、星崎さんも迷惑でしょうし……。

本当にすみませんでした」

頭を下げて立ち上がると、樋口は扉に手 をかけた。


何らかの事情で飼い主が育てられなく なったり、捨てられた犬猫が産んだ子供 は、各都道府県の動物愛護センター、及 び保健所で殺処分される。

平成22年の統計では、犬と猫、合わせ て、年間およそ20万頭が、そういう目 にあっている。

そのうち3割の動物が、飼い主により保 健所に連れて来られ、命を奪われてい る。

捨て犬や捨て猫を殺すための設備、死体 を焼却するための燃料費、及び殺処分に 要する人件費は全て税金でまかなわれて いる。


殺処分のことやそれを行う施設のことな ど、詳しくは分からなかったが、あの白 猫達を樋口の元に帰したら、間違いな く、もう、猫達には会えなくなる。

一瞬でそう考えたメイはリビングを飛び 出し、玄関に突っ立った樋口を呼びとめ た。

「ちょっと待ってよ……!」

「メイ……!」

ミズキは玄関先に座ったままの状態で目 を見開く。

メイはやや高ぶった声で樋口に訴えた。

「あの猫達は私が育てる。

だから、もし見つかっても、連れていか ないで!」