幸せまでの距離


「忘れない」

ショウマの低くて柔らかい声音が響いた。

「忘れない。リクの言う通りかもしれないな」

リクの言葉は、ショウマの胸にズシンと染みていた。

日本全体は無理でも、諦めなければ、自分の周りだけでも変えられるかもしれない……。

リクはショウマの気分を損ねていないことに胸を撫で下ろし、

「よかった……。つい、力入っちゃってさ。

ショウマとは、今日しゃべるようになったばかりだし、絶対引かれた! って、一瞬心配になった……」

ヘヘッと照れ笑いするリクに、ショウマは言った。

「……違ったらごめんけど。

もしかしてリクの親って、『好き嫌いはするな』って言ってリクを育てた、教育熱心なタイプ?」

リクは自分の家庭環境を初対面のショウマに見抜かれ、動揺を隠せなかった。

「な! 何で分かるの?」

「やっぱり、そうなんだ」

ショウマは得意げにアゴを突き出す。

リクは、心の奥底にたまっていたものを吐き出すように勢いよく、

「そうなんだって!

何かあるたびに、勉強しないと立派になれない、とか、ご飯の時も、毎回毎回、好き嫌いはするなって言われてた!」

と、両親にそう言われた時に覚えた不満と、かすかな反抗心をあらわにした。