幸せまでの距離


自分が生まれてしまったことで翔子の人 生を変えてしまった。

それはもう、嫌ほどメイの身にしみてい る事実だが、ただならない気分にさせら れるのはそのせいだけではない。

翔子が舞台の世界を引退した今も、こう して翔子を尊敬し、夢を追いかける若者 がいる。

翔子の演技に心奪われ、その世界に憧れ を抱く者がいる……。

母親としては最低な人間だったかもしれ ないが、一表現者として、翔子は素晴ら しい人材だったのだ。

“もし私が生まれてこなければ、翔子は 今でも、演劇を続けてたんだろう な……”

母親として見ると憎んだり軽蔑すること しか出来ないけれど、今のメイは、も う、翔子に対して母性を求める気持ちは ない。

だからなのか、良くも悪くも、翔子のこ とを一人の人間として客観的に見ること ができる。

翔子の夢を潰してしまったことに、メイ はいたたまれない気持ちになった。

“いまさら考えたってどうしようもない ことだ……。

私を生むと決めたのは、他でもない、翔 子自身なんだから”

メイは、一生懸命、そう思い込もうとし た。