喫茶店を出た二人。
結局リクは、翔子におごられた飲み物を 口にすることはなかった。
「もう、メイに対してしてあげられるこ とは何もないし、私なんかに償いが出来 るとも思ってないけど、あの子が、望む 未来を手に入れられることを願うわ」
別れ際、翔子はそう言い、リクに呼びと められた交差点で姿を消した。
再婚した男性の元に帰るのだろう。
夜の帳(とばり)が下りた繁華街。
街灯に反射し光る翔子の結婚指輪は、憎 たらしいほど綺麗だとリクは思った。
彼女は、少なくともリクのよく知るヒス テリックで裏表の激しい女性ではなく なっていた。
また、メイに宇都宮を差し向けた時の強 欲な母親、といった面影もない。
心を許せる男性と出会い再婚したこと で、彼女の考え方は大きく変わったとで もいうのだろうか。
翔子の変化に気後れしつつも、リクはミ ズキに会うため、心とは違うしっかりし た足取りで目的地に向かった。
待ち合わせのファミレスまでは距離があ る。
電車に乗り、1駅越して、ミズキより先 に店内に入った。
ファミレス内は親子連れや女子高生、大 学生の客で溢れていて、リクはややため らった。
翔子と話していた喫茶店の雰囲気と違い 過ぎる。
それだけでなく、翔子に聞いた話が頭の 中を旋回し、胸が焦(こ)げるように痛 い。
そのため、どうにも店内のにぎやかさに なじめなかった。
長年メイが抱えてきたものは、リクの想 像以上に大きなこと。
どうしたら、彼女の心を開けるのだろ う。
つらさを軽減してあげられるのだろう。
窓際のテーブル席に案内されたリクは、 そんなことを考えつつミズキの到着を 待った。


