幸せまでの距離


ショックで何も話せないリクだったが、 残り少ない気力を振り絞り耳の神経を働 かせた。

これ以上、メイを傷つけるような行いを してしまわないように……。

「リク君は知らないかもしれないけど、 私、若い頃は舞台女優をしていたのよ。

たまにテレビにも顔を出していたし、努 力が実ったのを実感して幸せな毎日を 送っていたわ。

さあこれからっていう時に、付き合って た保との間に子供ができた」

「メイのことですよね?」

「そうよ。

……いま思えば、罰が当たったんだと思 う。

私は、女優になるためにあの人を利用し てたから」

「利用?」

「聞いたことないかしら?

舞台女優も、世間で言う“表現者”なの よ。

漫画家や小説家、歌手、画家と同じ。

自分の中に眠る全ての感性を場面やテー マに応じて適切かつ個性的に表現するこ とが出来るかどうか、それが表現者の命 運を分ける。

いくら技術や才能を兼ね備えていても、 感性と運が無かったら終わり。

夢のために努力は怠らなかった私にも、 唯一足りないものがあった。

それが、恋をする心。

演技で、どうしてもそれを表現すること が出来ずに伸び悩んでいたわ。

恋愛する人物の役をもらっても、その人 格になりきれずに、誰かの見よう見真似 になってしまう……。

学生時代から演技のことだけ考えてきた もの、当然だわ。

恋愛なんて興味がなかった。

舞台で有名になる夢をあきらめなくちゃ ならないのだろうかって悩んでた時に、 保と出会ったの。

交際中、彼は惜しみなく私を愛してくれ た。

おかげで私は、大舞台への出演を叶える ことができたのよ……」