幸せまでの距離


「保との共同生活の中、何度離婚を考え たか分からない。

メイとあの人の顔を見たくなくて、一人 で家を出ることも考えたわ。

でも、その勇気すらなかった」

過去の栄光を捨てるように結婚した翔子 に、逃げる場所は一つもなかった。

夢を追うと決めた独身時代に両親との縁 を切っていたので、頼れる身寄りもな い。

「いつまで、こうやってダラダラとこの 生活を続けてくんだろうって思ってた」

翔子はリクと目を合わせず、虚(うつ) ろな目で遠くの出入口を見て言った。

「ある時、保の様子がおかしいことに気 付いたの。

長い間セックスしてなかったけど、私達 は同じ寝室で寝てた。

夜中、保がベッドを抜け出して、1~2 時間戻ってこないことがあったのよ。

はじめは、トイレでお腹壊してるのかと 思ったけど、違ったわ」

当時の翔子は、ストレスが高じて寝付き の悪い日々が続いていた。

市販の睡眠導入剤が効いていたのも最初 だけで、繰り返し飲用すると効き目が薄 くなっていた。

「夜中に何度も目が覚めて、だからこそ 保の行動にも気付けた。

あの人、子供部屋で寝てるメイとセック スしてたのよ」

「え……?」

聞き返すと同時に、リクの全身は震え た。

何を言われたのかすぐには理解できず、 つい、そんな気の抜けた反応になってし まう。

翔子は苦々しい表情で、

「……私だって、夢だと思いたかった。

でも、現実よ。

とても信じられることじゃないでしょう けど、ウソは言っていない。

離婚に踏み切ったのも、そのせいよ。

保の両親に電話して、洗いざらいぶちま けた。

保の両親は青ざめて、二度とメイと保を 会わせないと約束してくれたわ……。

出来れば、話すまでもなく途中で察して ほしかった……」