幸せまでの距離



リクはほんの少しの不安と、それを上回る期待に満ちた面持ちで大学の入学式に参加した。

見渡す限り、人、人、人。

リクと同じく、真新しいスーツを着た同級生達。

見知らぬ顔ぶれ。

大人っぽい人もいれば、中学生にしか見えない人もいる。


リクの胸は、門前や学内に咲き誇る桜のように、淡い色をして明るく色づいていた。

何もかも、思うがままになりそうな気がする。

ここでなら、夢を叶えられる気がする。


つい数週間前まで高校の制服を着ていたとは思えないほど、どの人も大人びて見える。

“スーツって不思議だなぁ”

リク自身も、合格発表後初めてこうしてN大学の敷地内を歩いたことによって、人生の岐路に立ったのだと感慨(かんがい)を覚えた。

今年大学2年生になったひとつ年上のミズキ達も、去年の今頃はこんな気持ちだったのだろうか。


1階の学生課の前で配られているパンフレットを受け取り、リクは入学式が行われる講堂に向かった。

この大学には、リクの知り合いは一人もいない。

同じ高校の友達は皆、専門学校や県外の大学に行ってしまったし、就職した人もいる。