「まさか、山本さんがこんなとこ まで来てくれるなんて、思わな かったよ~」
ショウマは困惑気味にそう言い、 山本の好物である温かい緑茶を入 れた。
「そんな気ィ使わんでいいって」
ソファーに座らされた山本は、そ う言いながらも待ち遠しそうに台 所に立つショウマを眺めていた。
山本久(やまもと・ひさし)は、 ショウマと同じ愛知県に住んでい る50代の男性である。
彼はショウマの実家がある隣町で 小さな製麺工場を営んでいるのだ が、今日と明日の仕事は社員達に 任せ、自らは休みを取ったらし い。
ショウマの顔を見るために、こう して財布ひとつで長崎までやって 来たそうだ。
ショウマが大学に来る前まで、山 本とショウマは仲良くしていた が、ショウマがこうして遠方で一 人暮らしをするようになってから は、連絡も取り合っていなかっ た。
「今さら気付いたけど、俺達お互 いのケー番とかメアド知らないよ ね。
交換しとく?」
ショウマはそう言い、湯のみに入 れた緑茶をそっと山本に手渡す。
「電話番号なんてのは、そんなに 重要じゃない。
会いたい時は、こうして会いに来 るから」
山本はそう言い、緑茶に口をつけ た。
「ショウマの入れてくれるお茶 は、やっぱり世界一だなぁ」
「山本さん、おおげさだって!
俺、お茶の入れ方とかテキトーだ し」
言いながら、ショウマははにか む。
こうして褒められるのは恥ずかし いが、悪い気はしなかった。


