幸せまでの距離


「……」

メイは無表情のままリクの右頬に指先をやり、力一杯つねった。

リクにとってメイの力はそこまで強いと感じないが、頬という柔らかい場所をつねられたらさすがに痛い。

それに加え、柔らかいメイの指先が顔に触れているというだけでリクの心臓はバクバクしていた。

「いっ、痛い!!」

激しく鳴る心臓の音をかき消すように、おおげさに痛がってみせる。

メイは「あんたがやれって言ったんでしょ」と言いたげな顔で立ちつくしているが、

「メイの返事、夢じゃ……ないんだな」

というリクの声に、あたたかい気持ちになった。

「そーいうことだから」

メイはそのまま自室にこもってしまい、リクが何度呼んでも出てくることはなかった。

リクの頬には、大好きな人のぬくもりとじんわりした痛みだけが残る。


両想いだからといって彼氏彼女の関係になれるとは限らない。

メイとリクもそうだった。

2人は、それからも何度か会ってご飯を食べたり街に遊びに行ったりしていたが、交際についての話し合いをすることはなかった。