幸せまでの距離


磨りガラスで出来たバスルームの扉越しに、シャワーの音が聞こえてくる。

ミズキは頭の奥から湧いてくる眠気をグッと抑え、体操座りをして脱衣所の壁にもたれた。

メイが星崎家の一員になって早くも一ヶ月が過ぎた。

汗だくになったメイがこうして夜中に目を覚ますのは珍しくないこと。

毎晩メイと共に就寝していたミズキは、最近そのことを深刻に考えていた。

“メイちゃんの心の傷は、簡単には癒えない……。

悪い夢を見てるんだ……!”


少しばかりの寝汗ならタオルで拭いて済ませればいいが、メイが夜中にかく汗は真夏の昼間にランニングをしたかのように大量だ。

放っておいたら風邪をひいてしまうかもしれないので、こうして夜中にも関わらずシャワーを浴びさせることにしている。

メイは星崎家に来てから一人になるのを極度に嫌がり、脱衣所にミズキやミズキの母·菜月を連れていきたがる。

眠くて仕方ない時もあるが、ミズキと菜月は、睡眠を我慢するより、脱衣所でメイの体の傷を見て涙を抑えることの方がつらく感じていた。

背中や肩、腰周りにある無数の小さくて丸い形のへこみ……。

メイはそれについて何も言わないが、ミズキがそれをタバコの火を押し当てられたゆえの傷痕だと察するのに、そう多くの時間はかからなかった。