幸せまでの距離

電話を切ると、リクはロビーにい るアカネの元まで走った。

「リク君!」

晴れやかな顔になるアカネに向 け、

「ごめん……。俺、帰るよ」

それだけ告げ、別の待合室で待機 していた菜月の元までさらに走っ た。

「アカネちゃんのお母さん、大丈 夫だった?」

尋ねる菜月に、リクは口早に答え る。

「それは大丈夫です!

もう、戻っていいですか!?

いまショウマに聞いたんですが、 メイが――!」

事情を知った菜月は車を飛ばし た。

夜の車道は交通量が少ないから か、どれだけスピードを出しても 遅く感じる。

車中リクは、電話でショウマに言 われたことを思い出していた。

『リクがそっちに行ってちょっと 経った後、メイちゃん、部屋で取 り乱してたらしい……。

その様子を直接見てたわけじゃな いけど、メイちゃんの叫び声と か、普通夜には立てないような大 きな物音が一階のリビングにまで 聞こえてきたから、一瞬、泥棒に でも入られたのかと思ったくらい だった。

ミズキちゃんとメグルちゃんがメ イちゃんを落ち着かせて、そのま ま一度は部屋で寝かしつけたらし いんだけど、ミズキちゃん達がリ ビングに戻ってきた後に、メイ ちゃんは俺らに気付かれないよう にこっそり部屋を抜け出したんだ と思う。

みんなで家中探してみたけど、い なかった』

事態は切迫している。

運転席にいる菜月もリクと同様、 思案顔で黙り込んでいた。

「あの……」

話し出しづらい雰囲気の中、リク は訊(き)いた。

「メイは、昔、何があったんです か?

虐待だけじゃなくて、ミズキちゃ んとメグルちゃんは、俺の知らな い何かを知ってるんです。

でも、教えてもらえなくて……」

「……ごめんね。

それは私も知らないし、メイ本人 も、リク君には話しにくいことな んだと思う。

でも、それはリク君のことが嫌い だからそうしてるというわけじゃ なくて、むしろ好きだから、本当 の自分を知られるのがこわいん じゃないかしら……」

「……そうですよね。

メイにだって、言いたくないこと とかありますよね」

「わかってもらえて、嬉しいわ」

それきり、菜月は何も話さなかっ た。