幸せまでの距離

リクはアカネの誤解をとくため、 出来るだけ穏やかに言った。

「親を大事にしなきゃなって、 思っただけ」

「……そうだよ、リク君。

生きてるうちに、話したいこと話 してね。親と」

遠い瞳で窓の外を眺めるアカネの 横顔は、普段大学内で会う時より グッと大人びて見えた。

「そーだ! ちょっと待って て!」

アカネは突然立ち上がり、母親が 寝ている病院まで走っていった。

スリッパをはいた彼女の足音は、 やけに大きく響く。

アカネは自分のバックをつかん で、すぐにリクの所へ戻ってき た。

「遅くなってごめん! こ れ……」

誰もいない夜のロビー。

ささやかな明かりの下、アカネは バックの中から財布を取り出し、 リクに一万円札を差し出した。

「ずっと返せなくてごめん ね……。

人前でお金のやり取りすると、変 な目で見られそうで嫌なんだ。

ワガママ言って引き延ばして、本 当にごめんね」

なるほど。ここなら人目もないし な。と、アカネの考えを見透かし つつも、リクは彼女の手をそっと 押しのけた。

「いらない。忘れてたし」

「でも……」

アカネは戸惑う。

リクは、アカネの家庭環境を知っ て、よけいに金を返せとは言えな くなった。

「いま、お母さん大変な時で しょ?

それはあげたと思ってたから、も うホント、気にしないで」

リクはアカネを納得させるべく、 微笑む。