幸せまでの距離

ロビーの長イスに腰を落ち着けた 二人。

さきほどまでは不気味に感じた屋 内の静寂も、今は心を落ち着かせ るものとなっていた。

ショウマとのやり取りを頭で反芻 (はんすう)するリクの隣で、ア カネはポツポツと話し始めた。

「……お父さんが死んでからね、 お母さん、ずっと働きづくめだっ た。

だから、最初は大学行くのも諦め ようかと思ってたけど、奨学金が もらえるようになったから、何と か通えてる……」

「そうだったんだ……」

リクは、両親がいることのありが たみをひしひしと感じた。

前、ショウマにこんなグチをこぼ したことがある。

父や母が口うるさい――。

そんなグチも、アカネの置かれた 境遇に比べれば子供じみてい る……。

改めて、様々な家庭があるのだと 知った。

メイのように親を嫌う子もいれ ば、アカネのように親の死を恐れ る子もいる……。

リクは後者だ。

“もし今、うちの親が倒れた ら……。

俺は普通じゃいられないし、さっ きのアカネちゃんみたいに取り乱 すと思う……”

そう考えているうちに、ショウマ に取ってしまった態度を後悔し た。

ここに向かう時、リクはアカネの 危機に感情移入し、もし自分の親 がいなくなったら……と考えてい た。

結果、ショウマが引き止めてきた 時も、彼の真意を正しく受け止め ることが出来なくて……。

考え込むうちにリクの眉間にはシ ワが寄っており、それに気付いた アカネは謝った。

「ごめんね、こんな暗い話……。

つまんないよね、ははは」

「ううん、そうじゃないけどっ」

リクは慌ててそう返した。

何やら、アカネを誤解させてし まったらしい。

明るい口調とは裏腹に、アカネは 不安げな表情でリクの顔色をうか がっている。