幸せまでの距離

時計の針は、すでに夜の9時を回 ろうとしている。

この辺りは表の車通りも少なく、 室内でテレビなどもつけていな かったため、メイの叫び声と大き な物音は、下のリビングにいたミ ズキ達の耳にも届いた。

「メイ……!!」

ミズキは反射的に立ち上がり、天 井を見上げた。

メイがこの家に来てから、こんな ことは初めてだった。

夜中に悪い夢を見たり、日中ネガ ティブな発言をすることはあった が、あそこまで取り乱した彼女は 見たことがない。

「みんなはここにいてくれる?」

ミズキは、みんなにそう言うと、 メイの部屋に続く階段を駆け上 がった。

ただならないミズキの言動を見て 不安になったメグルは、

「あたしも行かせて!」

と、ミズキの後を追いかけた。

マナ達は、不安な面持ちでミズキ 達の背中を見つめていた……。

二人がメイの部屋に入ると、メイ は地面に這(は)う体勢で泣き崩 れていた。

「……っ。……っ」

苦しそうな嗚咽(おえつ)だけが 室内に響く。

「メイ、どうしたの? 大丈 夫?」

「苦しいの?」

ミズキとメグルがそれぞれに声を かけてしばらくすると、メイはお もむろに立ち上がり、泣き腫らし たうつろな目を見せた。

「……」

ミズキはメイを抱きしめる。

そうすることでようやく、メイの 目は現実をとらえることができる ようになった。

この数分間のうちに何が起きたの か、ミズキだけでなくメイ本人に も分からなかった。

メイの中にあったマナの言葉や清 の存在がどこかへ飛んでしまった 上に、自分が何をしていたのかす ら把握できていなかったの だ……。

散らかった部屋を見て、ミズキと メグルはもちろん、メイ自身も、 事の異常さを感じていた――。