幸せまでの距離


「この前テレビで見たんだけどさ。

アメリカでね、父親が娘をレイプして殺したって事件。

見た? こわいよね……」

「見た見た!

それ、近親相姦だよね!?

絶対ありえない!!」

「気持ち悪いね、そのオヤジ!」


ありえない。
気持ち悪い。

そんなこと、他人に言われるまでもなくメイ自身一番よく分かっている。

「アンタ達に何が分かるんだ!」と口に出しそうになり、グッと我慢した。

家で孤独な分、学校では誰かと一緒にいたい。

余計な波風を立ててグループの和を乱し、一人ぼっちになるようなことは避けたかった。

ヒリヒリと、胸の痛みは消えなかったけれど……。


その日からメイは、数日おきに父親や“あの男”に受けた屈辱的な光景を夢に見て、うなされる日々を送るようになった。

一睡もできない夜もある。


年月の流れと共にその頻度は低くなっていったが、全く無くなるわけではない。

星崎家の養子になり、新しい環境に身を置くようになった現在でも、メイの深層心理には深い傷が癒えずに残っていたのだ……。