幸せまでの距離


メイが泣きやむのを確認すると、男は浴室に向かいバスタブに湯をはった。

6帖の部屋が2つと台所、洗面台だけの屋内に、その音は大きく響いた。

久しぶりに耳にする水の音を新鮮に感じながらも、メイは男のしていることに焦りを感じた。

翔子は、メイ一人でガスや電気を使うのを決して許さないのだ。

しかし男にはそんな遠慮も全くないようで、得意げに親指を立て、

「女の子だもんな。

毎日、風呂入りたいよな」

と、メイの気持ちを察して行動を起こした。

彼の気持ちは嬉しかったが、メイは翔子に殴られることが恐ろしくてたまらず、湯を止めようと蛇口に手をやった。

「勝手に使ったらお母さんが怒るよ!

頭はお母さんに見つからないように水で洗うからいいの!」

男は蛇口に添えられたメイの手を軽くつかむと、自信満々に言った。

「もう、そんなことさせないよ。

僕はメイちゃんのお父さんになるんだから。

僕と一緒に入れば、お母さんも怒らないよ」