男はメイの前で「子供の相手をするのが好きなんだ」と豪語しており、彼がいると翔子はメイに手を出さない。
翔子が感情まかせにメイを怒鳴りつけようものなら、
「ダメだよ、翔子。メイちゃん怯えてる……」
男はメイをかばった。
メイが風邪でひどい熱を出していることに先に気がついたのも、男だった。
「メイちゃん、すごい熱だね。
明日は学校休もう」
「……」
二人の様子を面白くなさそうに見やってふてくされている翔子の機嫌を気にしながらも、メイは男に気を許していいかもしれないと感じた。
『となりにガキがいるんだろー?』
昨夜、襖越しに聞こえたこの男の発言を忘れたわけではないけれど、翔子から守ってくれた。
母親がくれない愛情を、この男ならくれるかもしれない。
優しかった父親の代わりに、話を聞いてくれるかもしれない。
メイのそんな思いは日増しに膨らんでいった。
男は家で仕事をする間、しきりにメイの様子を見てくれ、着替えと食事の買い出しにも行ってくれる。
早く体調が良くなるようにと、メイのためにお粥(かゆ)を作ったり氷まくらを用意してくれたりと、かいがいしく世話をしてくれた。


