「…………は?」
だから彼の普段から想像できないような間抜けな声はきこえていなかったし、
「あーあ、あれ絶対怒ってましたよ、凛さん。
なんかしちゃったんじゃないんですか?」
という野村さんの楽しそうなセリフも、当然聞こえていなかった。
「おつかれさまでーす」
「お先に失礼します」
もう今日は仕事なんてできる気分じゃないから、先にあがらせてもらうことにした。
普段は休みなんてとっていないから、たまには息抜きしてもいいよね。
私はエレベーターの戸が閉まったのを確認すると、少し長めの息を吐き出した。
「悪いこと、しちゃったなぁ……」
彼の手前ああいったけれど、実は結構無理して調節してもらっている。
それでも、どうしてもしばらくは会社に行きたくなかった。
それなら家にこもればいいという話しだが、あいにく私と彼はいわゆる同棲をしているので、彼に会わないという目的が達成されない。
そう、私の一方的なものだけど、私と彼は絶賛喧嘩中なのだ。