季節は夏。
外を見上げれば秋特有の高い空が広がり、綺麗に黄色く染まったイチョウの葉が絶え間なく地に降り積もっていく。
そんな風景には目もくれず、私は無機質な灰色の廊下をカツカツと歩いていた。
すれ違った同僚や後輩が挨拶をしてくるけど、私には返答をするだけで立ち話に付き合う余裕なんてなかった。
私は今怒っている。
「部長」
私はノックもせずに目的の部屋の戸を開けると、開口一番彼に告げた。
「帰省いたしますので、しばらくお休みをいただきたいのですが」
部屋にいたのは、彼と彼の秘書。
秘書といってもれっきとした男なので、浮気の心配などないのだが。
「スケジュールは調整ずみです。
ほかの上司の方々にも許可をいただきましたので、問題ありません」
私は早口で捲し立てると、長期休暇申請書を秘書の野村さんに渡してさっさと部屋を出た。