いや、急いだつもりだったが、雨のせいか、タクシーはなかなか病院まで着かなかった
そして、俺と英子は一言も会話を交わす事はなかった
「こちらです」
ナース服に身を包んだ看護婦に連れられて、俺と英子は病室の前に立った
俺と英子は静かに病室へと歩を進めた
そこには、見る影もないアイツの姿があった
アイツの体はたくさんの医療機器につながれていた
「カ…イ…?」
英子がアイツの眠るベットへと近付いた
その足どりはフラフラとしていて、とても危なっかしかった
「…ねぇ…嘘でしょ?」
英子は悲しげな声を出して、ベットに脇にしゃがみ込んだ
「…ヤだ…ヤだよぉ……さっきまで……笑ってたじゃない!元気だったじゃない!」
英子はずっとアイツの手を握って離さなかった
「やめて下さいっ…患者さんの容態に関わりますっ…」
「目を開けなさいよぉっ…!!この馬鹿ぁっ!!」
看護婦の言葉を完全に無視して、英子は叫び続けた
その光景を見ているのが辛くて、俺は視線を逸らした
