「梨衣子っ!」


竜也の声がして、掴まれている腕を男からはぎ取られた。


360°どこを見ても高校生以上の男だったのが、一瞬にして視界は幼なじみの背中に変わる。

竜也はそのまま走って、あたしをまた路地裏に連れて行った。




「何やってんの梨衣子!!」


路地裏に着いた瞬間、すごい大きな声で怒鳴られた。

竜也は顔を真っ赤にして、すごく怖い。



「……ごめんなさいっ!」


いつもと違う竜也に、自然と涙が出る。


あたしの情けなさからかもしれない。



竜也はあきれてるかな?


だって、怖かったんだもん……。



ただ囲まれただけだったけど。

腕を掴まれるなんていつもだけど。

気持ち悪い笑顔なんて腐るほど見てきたけど。


……もう慣れたはずだったけど。


でも、それが一度にきて、すごく恐怖だったんだ。



トン....



竜也に、ゆっくりと抱き寄せられた。


「……怖かったでしょ? 疲れたでしょ? ……帰ろう」


そう優しく言った竜也。

顔は見えないけど、きっと優しい顔をしているんだろう。

チビなあたしから見ても、あまり高くない背の竜也。

でもあの日見た背中は、誰よりも大きかった。