「……あの事件、本当に何があったか教えてほしいの」


「そうですか、じゃあ」


川岸さんのその一言を聞くと、俺は鞄を手にした。


「待って!」


「……僕は話を聞くだけです。答える義務はありません」


俺はもともと全部聞くつもりはなくて。

ズルイかもしれないけど、どんな話かだいたいわかったら帰るつもりだった。



「お願いだからっ!!!」


川岸さんは、机につきそうなくらい、頭を下げた。


それを見てるこっちが、情けなく思えてきて……。

川岸さんが涙を流しているのを見ると、やり切れない気持ちになった。


その姿が、竜也にダブッて見えて。


昔、花瓶を割った俺をかばって謝った竜也みたいに。

俺が何か失敗したら、すぐ自分のせいだと嘘をつく竜也のように。



必死で頭を下げる姿は、あの日守れなかった竜也だった。