異人乃戀 短編集




 いつ帰れるか分からない私の世界。
 今居るこの世界。

 本当の私の居場所はどちらなのか……。月日が経つにつれて分からなくなる。


 湖阿はいつもの庭の縁側に腰をかけ、ため息をつきながら花を眺めていた。
 共存するはずのない花たちが咲き誇る庭はいつ見ても不思議だ。
 だから、何か考え事があるとここに来てしまうのだろう。

 共存するはずのない花。
 この世界に居るはずの無い異世界の人間。
 どことなく似ていると湖阿は感じていた。
「あーあ……みんな元気かなぁ」
 屋根に囲まれた空を見上げると、湖阿は呟いた。
 この世界の空と元の世界の空は繋がっていない。
「そんなの分かってるのに」
 アメリカとかイタリアとか違う国に行ったら繋がってると思えるのだろうか?
「……どうした」
 抑揚のあまり無い声が聞こえ、振り向くと志瑯が立っていた。
 湖阿は笑顔を取り繕うと少し座る位置をずらした。
「ちょっと庭を見てただけ。志瑯は会議の帰り?」
 志瑯は頷くと湖阿の横に腰掛けた。
「少しは休んでる?志瑯って夜中まで何か仕事してそうだもん」
 実際、志瑯は夜遅くまで起きて調べ物をしたり、その他雑務をこなしていた。
 部下に頼めばいいことまで自分でしているのだ。
「少し寝れば良いような体にできているから大丈夫だ」
「少し寝ればって……いっつもどれくらい寝てるの?」
「……疲労がとれる程度には寝ている」
「時間は?」
「……自分で十分と思う程度には寝ている」
 志瑯の誤魔化す言い方に、湖阿はため息をついた。
 志瑯がいつも二時間程しか寝てないのは身の回りの世話をしてくれる楓から聞いていた。
 楓の冗談か過大表現だろうと思ったのだが、違うらしい。
 志瑯でも誤魔化そうとするのか。と、志瑯の新たな一面を発見した湖阿は、嬉しくなった。
 と同時に、もっと問い詰めてやろうと少し志瑯との距離を縮めた。
「何時間?」
「……時間は見てない」
「大体何時間かは分かるでしょ」
「……」
 表情は変わらないが、志瑯が動揺しているのが湖阿には分かった。
 これ以上言うと逃げられそうだと感じ、湖阿は苦笑した。
「実は楓さんから聞いたから知ってるんだけどね。志瑯、寝なきゃ体壊すわよ?」
 志瑯が慣れている。と言葉を返すと、湖阿は首を振った。
「駄目よ。いつか疲れがどっと来るんだから!」
 慣れてると言っても、疲れが完全にとれているとは限らない。それに、つい最近まで術によって眠らされていたのだ。体の調子が前の状態に戻っているとは限らない。
「あ、膝貸してあげるから次の会議始まるまで寝てたら?」
 湖阿はそう言うと、自分の膝を叩いた。
 志瑯が断るか断らないか悩んでいると、湖阿は半ば強引に志瑯を引っ張り、横にさせた。
「私、小さい頃一時期お母さんの膝枕じゃないと眠れない時があったんだよね。落ち着くっていいか……」
 湖阿が下を向くと、志瑯と目が合った。湖阿は自分が強引にさせたことだが、急に恥ずかしくなり、綺麗に洗われたハンカチを取り出すと志瑯の顔に被せた。
「は、早く寝ないと、会議始まるし!」
「すまない」
 志瑯はそう言って目を閉じると、湖阿の温もりを感じながら眠りについた。

「志瑯?」
 少ししてから湖阿は寝ているかどうかを確かめる為に志瑯に声をかけたが、返事は無い。
 まさか本当に寝てくれるとは思わなかった為、湖阿は思わずにやけてしまった。
 志瑯にとって安らげる場に少しでもなれた。
 それは湖阿に居場所を与えられたようで嬉しく感じた。





ー終ー





○おまけ○
鷹「志瑯さまーってお前!」
湖「げ、鷹宗」
鷹「何してんだ!」
湖「もう会議始まるの?」
鷹「あ?まだだ」
湖「だったら静かにそこでお座りしてなさいよ!志瑯寝てるんだから」
鷹「あーああ……。ってお座りって何だよ!」
湖「しーっ!」
志「……」