もうすぐ暗くなる。
人気のなくなったロビーに少女が一人、俯いて肩を震わせているのが目に入った。
なんだか放っておけなくて、教師って俺にぴったりかもなーなんて思った。
「どうしたの?」
その子に声をかけると、彼女は泣きながら必死に話してくれた。
「私が、医者になるまでっ……亜紀の心臓は…待ってて、くれるかなぁ……っ…」
亜紀の心臓………?
そうか、この子が亜紀君のお姉さん。
なんか悪い知らせでもあったのだろうか。
「ねぇ…君は…」
「姉ちゃん……?」
俺の話を遮ったのは、亜紀君。
亜紀君が来た途端、お姉さんは涙を拭って亜紀君の元へ走って行った。
「亜紀っ、どうしたの?病室からでて平気?」
「看護婦さんが許してくれた。姉ちゃん達が来てるって言うから。」
その顔に、もう涙はなかった。
「お母さん達の話が終わったら行くから。亜紀は大人しく病室で待ってて。」
お姉さんはそう言って亜紀君の背中を押す。
「えー、まぁ…分かったよ。」
亜紀君はしぶしぶ病室に戻って行った。
再び静かになったロビー。
お姉さんは亜紀君の歩いて行った方を見たまま立ち尽くしている。
彼女の様子を伺うと、
ほろりと…一筋の涙がこぼれ落ちた。

