楓はそんな二人を見てクスクスと笑った。湖阿達としては肯定なんて出来ないことだ。
「昨日の敵は今日の友っていうじゃないですか。……まだ敵ですね」
現在進行形で敵だと言わんばかりの二人の威圧感に、楓は苦笑した。
端から見ればじゃれあっているようなのに。という言葉は言ってはいけないと感じた楓は、話を変えることにした。
このままでは空気が悪い。それに、二人が睨みあっている。すぐにでも喧嘩が始まりそうだ。
「湖阿様、咏様のところに行きますか?」
「そうね。こんなのにかまってられないわ」
湖阿はそう言うと、鷹宗に背を向けた。聞きたいことはあるが、今話しても喧嘩になるだけだ。
そして、楓が居る場で聞くのはいけない気がした。
湖阿がさっさと離れようと楓を促すと、鷹宗が湖阿の前に立ちふさがった。
湖阿はもちろん、楓も驚いて目を点にしている。
「俺が連れてく」
「は?」
「こっちだ」
鷹宗がさっさと歩き出し、湖阿は困って楓を見たが、楓も困ったように湖阿を見るだけだった。
何を考えているか全く分からないが、とりあえず鷹宗についていくことにした。
「鷹宗が連れて行ってくれるみたいだから……」
「そう、ですね。……行ってらっしゃい」
湖阿は苦笑すると、鷹宗を追った。連れて行くといったのだが、湖阿を待っている気はないらしい。
湖阿が追い付くと、鷹宗は立ち止まった。早足で歩いていたせいか、鷹宗の背にぶつかったが、鷹宗は何も言わない。
鷹宗の気性の波についていけない。と湖阿は思った。
「鷹宗ー?」
湖阿が話しかけても返事はない。前に何かあるのかと鷹宗の陰から覗くと、志瑯がいた。
そしてもう一人。
「凪さん?」
湖阿が呟くと、鷹宗は急に振り向いた。後ろに移動するのが少し遅かったら刀の鞘が湖阿に当たっていた。そのことについて意見しようと口を開いたが、鷹宗に封じられた。
「そのまま角を曲がれ」
耳元で鷹宗に囁かれ、鷹宗らしくない緊張した雰囲気を感じて湖阿は黙って従う。
口を手で塞がれたままでは息が出来ないため、それを外す為にも。
角を曲がると、鷹宗はため息をついた。なぜ逃げるような行動をしたのか理由は分からないが、最近の鷹宗はこそこそし過ぎだろうと湖阿は意見したくなった。
が、言えなかった。
「二人が話しているときは近付くなって親父に言われてる」
「お父さんに?」
「ああ。無粋な真似をするなってな」
凪が妾の一人だからだろう。
湖阿は男女が二人で話している時は話し掛けないのが裏倭のルールということを頭に入れた。
実際は志瑯だけなのだが。

