あの若さで"前を持つ"なんて親が泣く・・。
冷静になれば怖ろしくもなる筈だった。

「お待たせしました。」

注文したコーヒーを彼の席へ持って行く。

「・・・。」

カチャカチャと音をたてるカップ。
甲斐はあたしの顔を見上げていた。
手の震えは誤魔化せないのだ。


「少ししたら、落ち着きますから。」


あたしはそれ以上構って欲しくなくて、
お冷を注ぎ足してから逃げる様に
厨房に引っ込んだ。

煙草に火を着け、
自分専用のペットの水を飲み干した。

裏口の鍵を閉めてから、
厨房の台に乗り上げて
三角に座り、頭を抱え体を縮める。

誰にも見られたくない、弱い姿だった。

これで優弥との事が
何かも終わればいいと・・
あたしは本当に思っているのだろうか?

薄々は気付いていた、
今、この体は
優弥の優しい手を求めて震えているのだと。


「瑠璃さん・・?」


フロアには彼1人の気配、
穏やかに流れるオルゴールのBGM。
静かな中、呼ばれてちょっと驚いてる。


「あ、はい・・。」


慌ててそこから飛び降り
フロアへ出て行くと
彼はメニューを手にしていた。


「何か・・
手間の掛からない様な軽食はある?」


あたしったら・・「以上で?」と、
彼に聞きもせずにいたのだ。

手の震えに気遣ってそう云うのだろう。
その優しさには素直に感謝した。
それと同時に
申し訳なさそうな顔に笑ってしまってた。


「大丈夫ですよ、遠慮しないで。」

「・・・本当に?」

「ええ」

「じゃ、このカルボナーラ、下さい。」

「了解です。」


感謝の意を込めて彼に微笑んでから
また戻って行く。


「迷惑じゃなかったら良かったけど。」

「いいえ、お陰で安心でした。」


あたしの事を心配してくれた彼は
閉店時間まで居残り、店を閉めて
車に乗るまで一緒に居てくれたのだ。


「・・・友達からじゃ駄目かな。」


駐車場で彼が指で頬をかきながら云う。

いい人なんだろうなとは思う。
ただ、
それ以上の事は思わないし思えない。


「それ以上の事を
貴方が望まないのなら・・。」