「オイ! 何やってんだ!!」

あわや
取っ組み合いになりそうな場面だった。


「「 !! 」」


顔見知りの男性客が飛込んできたのだ。

彼は怯んだ彼女の手からハサミを取り上げ、
あたしから引き離してくれたのだ。


「アンタなんか死んじゃえッ!!」


翔子はそれだけを狂った様に叫んで
ダッ・・! と店から逃げ出して行った。


「待て・・!」

「甲斐さん、もういいんです・・!」


あたしは翔子を追い掛けようとする
彼の腕を引いて止めていた。

幸い、あたしの髪は約15cm、
一握りほど切られただけで済んだのだ。


「レイヤーでも入れれば
誤魔化せますから・・平気ですっ。」

「そう云う問題じゃないでしょ・・!」

「本当に、大丈夫ですから・・。」


彼は必死に並べ立てるあたしに
ようやく向き直る。


「無茶苦茶しやがって・・。」


苦々しくそう呟きながら
背中に着く髪を払ってくれた。

あたしは震えを堪え、平静を装い、
カウンター前のテーブルにセットし
そこへ彼を座らせる様に仕向ける。


「・・ごめんなさいね。此処は
誰かから聞いていらっしゃったの?」


携帯の番号さえ教えていない。

ウチには消防署の客が結構来ていたが
彼は分署が違う筈・・初めての来店だった。


「それより、あれは?」


怪訝な顔で席に着き、
水を一口クチに含んでいる。

彼を宥めるかに落ち着いて見せ
ロッカーのホウキを取り出していた。


「元・彼の、元・カノ?
ややこしいですね、フフ。」


優弥に別れを切り出されたのだろう。

彼女も被害者・・、
こんな事で気は晴れたのだろうか?

掃き取った髪をゴミ箱に捨てながら
あたしは妙な心配さえしてしまう。


「・・甲本かい?」

「・・違いますよ。」


勤務先が違うのに
なんで優弥を知っているんだろう?

あたしは咄嗟に嘘をついてた。
彼に云われたら困るからだ。

彼女だってその内、後悔するだろう。
証拠のハサミまで残し、
人に見られて止めに入られてる。

訴えられたら、傷害罪は免れないのだ。